夢物語
 「じ、事情は分かったから。冴香ちゃんも落ち着いて」


 メンバーの女子二人が泣き出し、集まりの輪は異様な雰囲気に包まれていた。


 部長夫人はその場を収めるため私を説得し、仲間の輪から引き離した。


 「もはや練習どころじゃないし。今夜はもう帰宅しなさい」


 その一方で部長は彼と何やら話をしていて、別のおばさまたちが泣いているSとMをなだめていた。


 不倫カップルTとSが自分たちの非を認め、私たちに土下座でもしてくると思っていたわけではないけれど、部長の姪であるMが口出しをしてくるとは予想外だった。


 そして涙。


 特にSに関しては、ウソ泣きで辺りの道場を買おうとしているのかもしれないと、私は疑っていた。


 とはいえ世間は、女の涙に弱い。


 周囲の人たちは一斉に、私よりもSの味方に転じてしまったのを感じた。


 私たちがあまりに理詰めで攻撃したため、TとSに同情票が集まってしまったようだ。


 風向きが変わったのを感じながら、その日は帰宅を余儀なくされた。


 彼はそのまま、会場に残されて。


 この後の展開が気になりつつも、無理矢理居残る雰囲気ではなかったため、しぶしぶ帰路についた。
< 48 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop