夢物語
 共倒れにならなくてよかった。


 心の底からそう思う。


 もしもあの時、彼と運命を共にしていたら?


 彼の左遷、退社、引きこもりに付き合わされ、心身ともに荒んでいく彼のそばにいることを余儀なくされ……。


 私もまた、だめになってしまったはず。


 悪いほうに巻き込まれず、最悪な展開を回避することができ、本当によかったと今では安堵している。


 ただ当時は、彼を死ぬほど愛していると思い込んでおり、奥さんから奪い取ることを目標としていたため、彼の心が離れて行ったことに対する悲しみはとてつもなく大きかった。


 最初で最後の恋、離れる時は死ぬ時、愛が全て……etc.


 クサいラブソングの一節のような言葉を、日々口にしていたあの頃。


 もしもタイムマシンがあったならば、当時の私の目の前に立ち、「早く目を覚ませ!!」と叫んでぶん殴ってやりたい。


 あの頃の私は、普通ではなかった。
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