鬼畜な兄と従順な妹
 その王子様は、階段を降りると、やはりゆっくりとした動作で私達に近付き、

「父さん、お帰り」

 と父に言ったので、私の”お兄さん”で間違いないらしい。それにしても、なんて素敵な人なんだろう。父は爽やかなスポーツマンタイプだけど、この人は全く違うタイプだ。強いて言えば……何だろう。想像力の乏しい私には、やっぱり王子様としか例えようがなかった。

「これが息子の真一です」

 ”真一”さんって名前なんだ。じゃあ、私は”真一兄さん”って呼べばいいのかしら。

「真一です。よろしくお願いします」

 と、真一兄さんは透き通るような声で言い、優しそうに微笑んだ。ああ、素敵なお兄さんで良かったなあ。

「こちらは加代子さんと、娘さんの幸子さんだ」

 父が母と私を真一兄さんに紹介してくれたのだけど、実の父親が実の娘を”さん”付けで呼ぶ事に違和感を覚えた。でも、真一兄さんにとっては、そういう事なのかな、って思ってみたり。

「よろしくお願いします」

 とお辞儀をしたら、

「幸子さんは僕と同い年だよね? よろしくね?」

 と言ってもらえ、嬉しくて、

「あ、はい。よろしくお願いします」

 と、私はもう一度お辞儀をした。笑顔と同じで、真一兄さんは本当に優しい人みたいで、私はほっと胸をなで下ろしていた。
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