鬼畜な兄と従順な妹
 私は、お兄ちゃんがキスしてくれるのを、ドキドキしながら待った。それなのに……

「幸子。兄妹でそういう事、しちゃいけないんだろ?」

 って、お兄ちゃんは言った。確かに、私は前にそういう事をお兄ちゃんに言ったと思う。でも……

「前は平気でしてたじゃない!」

 お兄ちゃんの身勝手さに腹が立ち、私はお兄ちゃんを怒鳴ってしまった。

 だって、お兄ちゃんは初めて出会ったその日に、私の大切なファーストキスを奪い、その後も、私の気持ちなんかお構いなしにキスしたり、胸に触ったり、好き放題してた。

 それなのに、急によそよそしくするなんて、酷いよ。私を、こんな気持ちにさせといて……

「状況が変わったんだよ」

「どう変わったの?」

「それは……」

「お兄ちゃんのいじわる!」

 私は叫ぶと同時にお兄ちゃんの頭を手で挟み、無理やり自分の口をお兄ちゃんの口に押し当てた。どうしても、お兄ちゃんとキスしたかったから。

 でも、お兄ちゃんはキスに応じてくれず、手を掴まれて唇を離されてしまった。

「お兄ちゃん……?」

 この時、私は気が付いた。お兄ちゃんが言った通り、二人とも状況が変わったという事に。

 初め私は、お兄ちゃんが鬼畜で、私が言いなりにならないと母が酷い目に合うから、仕方なく従順になっていたけど、いつからかお兄ちゃんが好きになっていた。

 それはお兄ちゃんも同じで、初めは母と私を憎んでいたけど、いつからか私の事を想ってくれるようになった。

 だからお兄ちゃんは私に優しくなり、それだからこそ私の事を思ってくれて、兄妹の関係に戻そうとしてるんだと。

「そうさ。俺はおまえの兄貴で、おまえは俺の妹。だから、もうこういう事はやめよう?」

 そんな事、わかってるよ……

 私は決心した。お兄ちゃん以外の男の子を好きになろうって。だから、ひとりでに溢れる涙を拭いもせず、私は言ったんだ。

「私、直哉君と付き合うから」

 って。
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