鬼畜な兄と従順な妹
 次の日、駅に向かう帰り道で、私は直哉君に返事をした。

「私で良ければ、付き合ってください」

 と。

「本当に? ありがとう。嬉しいなあ」

 と直哉君は笑顔で言い、学園のプリンスに喜ばれて、かえって私は恐縮してしまった。

「じゃあさ、手はじめに手なんか繋いでいいかな?」

 と言われ、本当はしたくないのだけど、カレカノになったんだからと思い、仕方なく私は直哉君と手を繋いだ。直哉君の手は、お兄ちゃんの手より大きくて、力強い感じがした。

 あ、直哉君は確か"手はじめに"と言ったと思う。という事は、次があるという事だと思う。つまり、キス。

 そしてその時は、思ったよりも早くやって来た。

 週末の土曜日。私達は初めてのデートをした。行き先は、たぶん私に合わせてくれたと思うのだけど、千葉にある有名なテーマパーク。

 それなりに楽しめたのだけど、正直に言えば、お兄ちゃんと来たかったかな、なんて思ってみたり。直哉さんには、本当に申し訳ないのだけど。

 その中で夕飯を食べ、家に帰って来た時はすっかり夜になっていた。私は何度も遠慮したのだけど、直哉さんは私を家の門の直前まで送ってくれた。

 そして、大きな街路樹の横で、

「今日はありがとうございました。お休みなさい」

 と私は言い、直哉さんにペコッとお辞儀をした。すると直哉さんは、両手で私の肩を持ち、私を見つめて言った。

「幸子ちゃん。キスしてもいいかな?」

 と。私は戸惑いながらも、「うん」と言った。
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