三月の向日葵



「おう」


「おう。来たよ」


男同士の挨拶みたいな感じで返すと、
葵はふっと笑った。


「男みてぇだな」


「悪い?」


「いや」


葵は肩を竦めてみせて笑った。
そしてベンチの隣をぽんぽんと叩いて座るように促す。
それに素直に従って、横に座ることにした。



隣に座ると、葵は空を見上げた。


「いい天気だな」


「そうだね」


「なんかいい匂いすんな。髪か?」


「よく気付いたね。青りんごなの」


「へぇ」


本当、よく気付くな。
男ってこういうことに疎いはずでしょう?


「早速で悪いけど、今日この後母さんが来るから、
 話合わせてくれよな」


「なっ……はぁ?
 あんたいきなりすぎるんだけど」


「だから悪いけどって言ったろ。
 ほら、さっさと行くぞ」


葵が立ち上がって私の手を取る。
とりあえず立ち上がったけど、聞いてないよ。
いきなり親に会わなきゃいけないなんて、
どう考えても難易度高すぎるでしょ。


「ちょっと待って。私嫌なんだけど」


「はぁ?昨日約束したろ」


「だからって、急に言われてもね……」


「大丈夫。俺の母さん、ちょろいから」


そういう問題じゃない。
話の通じない奴だな。
私が言っているのはそういうことじゃないのに。



葵は私と点滴を引きずるように連れて面会室へと入った。


部屋の中には綺麗な女の人がいて、
私を見るとびっくりしたように目を丸くさせて、
それから柔らかい笑みを見せた。


「母さん。こいつ、茉莉」


「は、初めまして。水野茉莉です」


「……あらあら、この子が彼女さん?」


綺麗なこの人が葵のお母さん?
葵のお母さんは高く澄んだ声で小首をかしげる。


うちのお母さんと大違い。
とても若く見えたし、素敵だった。


< 20 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop