輪舞曲-黒と白のcaprice-
とうとう歩みを止め、辿り着いた小汚い裏路地に一歩踏み込み暗闇に身を隠す。至極息苦しいのは気のせいではないだろう、怪我の悪化に引きこまれるようにして再度高熱が襲いかかる。

「…アサギ…見てんでしょ?」

両目を閉じ、空を拝むように顔をあげながら譫言のように、先程“亡霊”と罵ったあいつに声をかける。

『…何?』

怪訝そうに、また虫の居所が悪そうに、アサギは返答を示す。

「…ほんとにあなたは…、つくづく可哀想だな。って思ってね。」

…あの夜、出会わなければ、気付いていたのならあたしから逃げれば良かったのに。逃げてほしかったのに。今更だけど悪いことをしたな。
懺悔と本音は心の隅に隠しておく。

『…?怪我が悪化して思考回路まで回らなくなったの?』

「…ま…、好きに言えばいいよ。
あなたが生身の身体だったら…、憎い相手…今にも死にかけで崩れ落ちてる無様な仇を討ち取れるのに。ほんと駄目だわ。こんな無様な姿を見せるなんて。あたしも堕ちたものね…」

自分自身を嘲るように空嗤い。ははは…と声に出した後に一緒に激しく咳き込み、とうとう血反吐が現れる。
そんな様子を眉ひとつ動かす事のないアサギを後目に、辺り一辺にそれは染まり、いよいよそれを口にする。
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