桜の木の下で
私は下を向いて歩くことしかできなかった。
菅田さんを見てしまったら、
顔が赤いのがバレてしまうから。

菅田さんといえば、ただ前をみて歩いていた。

「おまえさ~っ」
「……はい?」

変な声で返事をしてしまった。

「ははっ……」

また笑われてしまった。

それから急に真剣な顔になって、私に聞いた。

「おまえ、前に俺と会ったことあるだろ?」
「……はい」

私は小さな声で答えた。

「桜の木の下だよな」
「分かってたんですか?」

驚いて、菅田さんを見上げた。

「……あぁ、何となく」
「そうですか」

そのことを思い出したのか
あの時の悲しそうな顔をした。
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