クールな御曹司と愛され新妻契約
彼女が持っていたトレンチのフルートグラスは宙へ投げ出され、中身は無情にも、こちら側へバシャッと飛んできた。

「きゃっ」

思わず、私も短く声を上げて目を瞑る。

スローモーションのように鮮明に見えた光景だったが、本当に一瞬の出来事だったため、咄嗟に避けられるはずもなく、私のワンピースドレスやヒールにはローズやカシスの香りがするアルコールが飛び散る。

唖然としつつ眼前に広がる光景を見やれば、幾人かの女性たちが
「ごめんなさい〜!」
「こちらこそ、不注意ですみません〜っ!」
と、謝罪し合っているのが聞こえた。

どうやら推測するに、スマホでの写真撮影に夢中になっていた女性が勢いよく他の女性客を押し出してしまい、その押し出された方がたまたま後方にいたスタッフに激突。

フルートグラスを運んでいたスタッフはバランスを崩して転倒してしまった、というような状況のようだった。

「も、申し訳ございません! 皆様、お怪我はありませんでしょうか……っ」

地面に倒れ込んでいたスタッフが、周囲に飛び散ったグラスの破片からお客を遠ざけながら謝罪をする。
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