クールな御曹司と愛され新妻契約
だって、『お互いの〝仕事〟を優先すべきです。だって、仕事に打ち込むために夫婦になったんですから』という私の放った言葉は、便宜上の夫婦でしかない私たちにとって――多分、正しい。



早朝の忙しい時間帯、私はルームウェアの上にエプロンを身につけた姿で、いつものように出来上がったお弁当を詰め終えてから、カウンターキッチンのシンクで洗い物に集中する。

そんな中、「麗さん」と耳元で千景さんの声が聞こえたかと思うと、私は背中からぎゅっと彼に抱きしめられていた。

「土曜日の……麗さんの言葉で、頭が冷えました」

洗剤で泡立てられたスポンジを持ったままだった私は、彼の言葉にビクリと肩を揺らす。

ギクシャクしてしまった私達の関係を先に修復しようと動いたのは、やはり千景さんの方からだった。

素直に謝るなら、今しかない。
私は急いで泡まみれの手を洗って、彼に向き直る。

英国仕立ての繊細なディテールの三つ揃えスーツを着込み、深みのある紺色のネクタイを締めた姿の千景さんの双眸と恐る恐る視線を合わせてから、私は勢いよく頭を下げた。
< 142 / 192 >

この作品をシェア

pagetop