クールな御曹司と愛され新妻契約
「あの、遠慮なく残されて下さいね。良ければ明日のご朝食用に、他のフルーツと盛り合わせを作らせていただきますので」

目の前に調理した他人がいると残しにくいだろうと思っておずおずと言い出せば、彼は「違うんです」と苦笑して軽く首を振った。

じゃあお酒の量かな? 翌日のお仕事に響くといけないし、次回の臨時出勤の際には、ほどほどで止めるようにしたほうがいいかも?

……って、そういえば次回の臨時出勤なんてないかもしれないんだった……。

次の祝日は七月の海の日。
これが最後の機会だったら、もっと豪華なメニューに挑戦したかったのにと、心の中で頭を抱える。


それから少しの沈黙が降り……。

湯気が立ち上る湯呑みをテーブルの上に置いた冷泉様は、両手を膝の上で組むと、長い睫毛を伏せてその白皙の美貌に影を落とした。


「……祖母から話を聞きました。――ご結婚、なさるそうで」


後悔と哀傷が混じり合ったような、しんと静寂に溶ける声音だった。
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