クールな御曹司と愛され新妻契約

五十平米を超える広いリビングダイニングの片隅の定位置に荷物を下ろし、早速エプロンを着込む。

キッチンで手を洗って、スーパーで買い込んできた食材を冷蔵庫へ一度入れながら頭の中で調理手順を確認していると、冷泉様がどこか嬉しそうな様子で「今日の夕食はなんですか？」とキッチンカウンターの向こう側から覗き込んできた。

「今夜のメニューは、五月の旬の食材を使った和風定食です」

「いいですね。久々に三並さんの作りたてのご飯が食べられるので、昨夜から楽しみだったんです」

「ありがとうございます。と言ってもレストランのシェフのようなものはできませんが……」

「いいえ。俺は三並さんの作る家庭的なご飯の味を気に入っているので」

料理メインで出勤するスタッフのように調理師免許を持っているわけではないので、大学の家政学部食物栄養学科で学んできた献立、会社のスタッフ研修で招待されたシェフから習うメニュー、そして自己流で勉強した料理を作らせてもらっている。