クールな御曹司と愛され新妻契約
『麗さんとの結婚を〝不埒なもの〟にしたくないという俺の我儘を、許してほしい』

千景さんは、真剣な表情で私を見つめながら告げ、私の左手を優しく拾い上げる。

不埒なものにしたくない、というのはどういう意味だろう? と一瞬考えたものの、以前初めてのデートで彼がプロポーズをしてくれたことを思い出して、契約結婚だろうと形式的なものは行いたいという意味なのだろうと理解した。

『……ううっ、はい。ありがとうございます』

なんだか突然恥ずかしくなってしまって、私は照れ笑いを浮かべながら今度は素直に受け取ると、彼が結婚指輪をはめてくれた左手を胸の前で抱きしめる。

『もし良ければ……麗さんから、俺の指にも指輪をはめてもらえませんか?』

『はい』

私は震える指先でリングケースから指輪をつまみ上げ、彼の長くて骨ばった薬指へ、慎重に指輪を滑らせた。

『なんだか、すごく、幸せです』

公に結婚式をするような結婚ではないからこそ、〝指輪の交換〟なんて今しかできない。穏やかな時間の貴重な体験に、胸が温かくなった私はポツリと呟く。
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