過去の精算
もし、もしヒロ君に友達以上の気持ちがあったとしても、私はそれを受け入れる気持ちは無い。
もう恋なんて出来ない。
苦しい恋を知ってしまっては…
恋なんてしたく無い。
「鯖の南蛮漬けって、私、初めて食べたわ?
結構イケるわね?」
「気に入って貰えて良かったです」
残ったものは舞さんの子供の為にと、タッパーへいれ、舞さんに持って帰って貰う事になった。
「この南蛮漬け、彼も好きだった?」
「ヒロ君ですか?
ええ、ヒロ君も美味しいって食べてました」
舞さんはヒロ君じゃなくて、前谷君の事だと言う。
だが、私は首を振り、彼は野菜嫌いだからと話す。
「野菜嫌いだと、料理作るの大変よね?」
「そうですね…
でも、もう私が作る事有りませんから…」
「それは作りたく無いって事?」
「他に作ってくれる人が、もう居ると思いますから」
「嫌いで作ってあげたく無いじゃなくて、他に居るから、諦めるって事?」
「舞さんって、意地悪な聞き方しますね?」
舞さんは、“ チーママは甘いだけでは、務まらないのよ?” と、言って笑った。つられて私も笑うと、舞さんは、悲しそうな顔をする。
「舞さん…?」
「ねぇ? 一度愛した人を、簡単には忘れられないでしょ?」
「・・・・・」
「人を好きになる事って簡単よね?
だって、相手の良いところを、探せば良いんだから?
でも、一度好きになった男(ひと)を嫌いになるのって相当な労力がいるわよね?
況してや、愛した人なら特に…?」
労力…
確かにそうかもしれ無い。
仕事してる時は忘れられても、一人になるとどうしても考えてしまう。
悔しくて悲しくて…
もう忘れようと思っても、忘れられない。
夢の中でまで追って来て、苦しいほどに、私の心を蝕んでいく。
「舞さん、やっぱり少し付き合ってくれます?」
カウターの上のウイスキーに手を伸ばし、グラスに注ぐ。