過去の精算

楓 銀行は、前谷君と結婚する人の…
それでなんで買収計画なんて出てくるの!

それって彼から病院を取り上げるって事?
もしかして、前谷君は医師を辞めるって事なの?
それとも…他の場所(病院)に移るの…?
どちらにしても、あの町から病院が無くなる…?

「キャサリンちゃん、聞いてる?」

「えっ? あ、はい。聞いてます」

「あなた、それで良いの?」

「え?」

「この町にも大きな病院は無いけど、前谷総合病院が無くなったら、となり町の人達どうするの?」

「そんな事言われても…私にはどうする事も出来ないし…」

『ホントに、何も出来ない?』

「…ママ、何が言いたいんですか?」

ママは昔話をすると言って話し出した。

「昔、あるお医者さんと看護婦さんが、その日暮らしの人達を無料で診察し、お薬を渡していた事があるの…
今じゃ考えられないけどね?
二人はとても仲が良くて、私達の眼から見ても幸せそうに見えたから、すぐに恋人だってわかったわ!
この辺の人達皆んなが、二人は結婚するんだと思ってた。
でも、ある日から医者である彼は来なくなって、看護婦さんだけが、一人で来る様になったの。
看護婦さんは、自分は医師じゃないから診察は出来ないからと、月に一度、松の湯の前で炊き出しをする様になった』

松の湯って…あの松の湯?

『二人に何があったか分からないけど、次第に彼女のお腹は大きくなっていった。それでも大きくなるお腹を抱えて、彼女は一度も休む事なく通って来てた。
“ いつかこの子も、父親の様な立派な外科医になって、多くの人の命を助けて欲しい ” って言ってね?』

「え?」

それって…
まさか…お母さん…?

「産後も、赤ちゃんを抱えて来てたわ?
それから何年かして、突然彼女は来なくなった。
何があったのか分からないけど…
ずっと姿を見せなかった彼だったけど、一度だけこの町で、医師である彼の姿を見たって人がいた。
雨降る中、傘もささずにとても淋しそうに、松の湯の前に立っていたって…
まるで泣いてる様に見えたって…」

医師って…

「そう、看護婦さんの名前は木村沙織さんって言ったわね。
私の姪がお世話になった人だから、姪の娘に沙織って名付けたから間違い無いわ?」

木村沙織…
やっぱりお母さんだ。
お母さんは…この町でも…




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