過去の精算
院長の手術の日を迎えた。
病室へ向かってると、彼が院長の病室へ入るのが見えた。
オペに入る前に、院長の顔色を見に来たのだろう。
「必ず成功させますから、安心して任せて下さい、父さん。
目が覚めた後には、きっと未琴の怖い小言がまってますよ?」
「いや、なにも心配はして無いが、未琴の小言はちょっと怖いかな?」と言って、二人が笑う声が聞こえる。
私は病室のドアを、ノックもせずに開ける。
「人(わたし)がいないからって、言いたい事言ってくれてるわね?
まぁ、術後のリハビリは、サボらない様しっかり見張らせてもらいますけど?」
私が姿を現した事に、二人は驚いていた。
あの日以来、私は二人に会っていなかった。
別に避けていた訳ではないが、病院は既に辞めていたし、心の整理をしたかったからだ。
私達が話してると、病室のドアがノックされ入って来たのはライオンのママだった。
「ママ…!」
昨夜、ママには会っていたが、今日来るなんて言ってなかった。
来るなら、手術が終わってからだと思っていた。
「三人とも顔色良くて、何よりだわ?」と、言うママ。
「手術を受けるのは院長で、するのは彼!
私の顔色なんて関係ないでしょ?」
「あら、昨夜はうちの店で遅くまで飲んでたじゃない? 二人の事心配して?」
「そ、それは二人を心配したんじゃなくて…
何かあったら、病院の評判に関わるから…
それを心配しただけで…」
「あら、そうなの…?
おかしいわね?
もう、お父さんを失いたくない。彼を失いたく無いって泣きながら今朝方まで飲んでたのは、何処の誰かしら?」
「ママ!」
絶対に言わないでって言ったのに!
「未琴…私をお父さんと呼んでくれるのか?」
ベットの上の父は泪ぐみ、今にも涙腺が崩壊しそうな顔をしていた。
「ちょ、ちょっと! 泣かないでよ!?
お父さんって呼んで欲しかったら、生きてオペ室から戻って来て!
そして、私とバージンロード一緒に歩きなさいよ!」
私の言葉に嬉しそうに頷き、「和臣、宜しく頼む」と彼に言った。
「因みに、誰との結婚式だい?」と父は楽しそうに聞く。
え?
もう、記憶障害なの?
たった今、彼に宜しく頼むって言ったじゃ無い?
その宜しく頼むってなに?
え? 手術の事だけなの…?
「そ、そんなの…
まだ、分かんないわよ!
プロポーズの指輪も貰ってないし!」
「あらあら、指輪催促されてるわよ、若先生?」
と言うママ。
「もう、ママ!」
私は、恥ずかしくなり、病室から逃げ出した。
すると彼が直ぐに追いかけて来てくれた。
もう!
追いかけて来るなら、あの場ではっきり言ってよね!
「未琴…プロポーズの事だけど…悪いが少し時間をくれ…」
「え?」
それってどういう事…?
「あ、そろそろ時間だから…」と言って彼は行ってしまった。