過去の精算

手術後、父は1週間ほどでICUから出る事が出来、一般病棟の個室へと移動した。
その頃には、私の事が病院中で噂になっていた。
毎日、父の顔を見に来ていたのだから、噂になって当然と言えば当然なのだが・・・

今日は、宙ぶらりんになっていた、病院や父の財産について、ママと弁護士を交えて、6人で話す事になっていた。
ママは、“ 部外者の自分が居ても良いの ” かと困惑していたが、父が、私の後見人として立ち会って欲しいとお願いし、立ち会って貰う事になった。

「で、未琴の気持は決まったのかな?」

「うん…やっぱり、全てにおいて彼が継ぐのが、一番良いと思う。
私達の関係が公になれば、昔の事とは言え、尾鰭のついた噂が立つと思うの…
これ以上、私達の誰一人傷つくのは避けたいから。それに結婚したら、前谷未琴になるんだし、お父さんはお父さんでしょ?」

と言う私の意見に父もママも賛成してくれた。だが、彼だけがまだ納得して無い様だった。

「カズ、私、木村未琴と一緒になるのは嫌?」

「そうじゃない! そうじゃないけど…
俺にそんな資格あるのかな…?」

「カズは、約束通り立派なお医者さんになったじゃない?
それだけで、資格は有ると思うよ?
お父さん、違うかな?」

「うん、未琴の言う通りだ。
和臣は、私を超える立派な医者になってくれた。
安心して、病院の事も未琴の事も任せられる」

「親父…」

父の言葉に涙ぐみ、彼は “ 有難う御座います ” と父に感謝を述べると同時に、父に条件を出した。

それは、真の後継者になる事は承諾するが、今迄通り自分は副院長のままで、父には院長として、町の人達の為に病院を見守って欲しいと言うのだ。

だが、父は手術を受ける前に、私達に引退を告げていた。

「だが、私はもう…」

父の手術は上手くいったし、記憶障害も出ていない。
だが父は、外科医としてメスを握る事はもう出来ないと言う。
なんの障害も出ていないとは言え、頭にメスを入れた時点で、外科医としてメスを持つべきでは無いと父は言うのだ。

「外科医として、メスを握らなくても、この町の人達の為に出来る事はあります。
元気なうちは、ずっと院長として生き、俺を育てて下さい。息子として、医師として」

彼は院長の器に育てて欲しいと、父に頼んだのだ。




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