過去の精算
もぅー、朝からどんだけ暇してるのよ!
そんなにのんびりしてても良いわけ?
今日、手術が入ってるんじゃなかったの!
こっちは、朝から忙しくて大変だったんだから!
切ったはずの電話に向かって、私は “ 馬鹿!” と言って電話を睨んでいた。
院内の敷地に入った所で、丁度出勤して来た放射線技師の前田先生が居た。
「前田先生、おはようございます!」
「おは…えっ!木村さん?」
前田先生の驚く顔が可笑しくて、笑いが溢れる。
やっぱり驚きますよね?
私も驚きましたもん!
「どうしたの? その格好…?」
「ちょっと、事情がありまして…やっぱり私には似合いませんよね?」
「ううん。
凄く良い! 見違えるほど綺麗になったね?
その服も、君にとても似合ってるよ?
「有難うございます」
「いっそうのこと眼鏡もコンタクトにしたら?」
コンタクトか…
「考えて見ようかな?」
「是非そうした方が良いと思うよ?」
前田先生は、私へ声を掛けてくれる、数少ない先生の一人。
先生と言っても、放射線技師であって、私が先生と呼ぶと、彼はとても嫌がるのだ。
前田先生も去年までは、他の先生達と同じで、挨拶を交わす程度の仲で、ほとんど喋った事はなかった。
ただ、私がたまにお邪魔するお宅のおばあさんが、前田先生のお祖母さんだった事から、最近は少し喋る様になったのだ。
でも、こんなに喋ったのは、初めてかも知れない。
「もしかして今日デート?」
「まさかぁ!
恋人がいない事、前田先生も知ってるじゃないですか?」
「まぁ居ないとは聞いてるけど、そんなに綺麗だと疑いたくなるよ?
こんなに綺麗な木村さん、今まで見た事なかったしね?」
「疑って頂いても、居無いものは居無いですよ!悲しい事に…」
「本当に?
じゃ、その言葉信じて誘ってみようかな?」
「え?」
「良かったら、今夜食事に付き合ってくれないかな?」
前田先生が私を誘ってくれた?
他の先生達より話しはするけど、今まで食事なんて誘ってもらった事など、一度も無い。
嬉しいけど…やっぱり…
お断りをしようとしたその時、前田先生へ声が掛かった。
「前田君!簑田さんの最終術前カンファ遅れるぞ?」
げっ前谷君…
「あっ前谷先生、おはよう御座います!
簑田さんの術前カンファレンスは、技術長が出席する事になってますが?」
「君も勉強になると思うから、出席しなさい!」
「はい!有難うございます!
直ぐ準備して出席させて貰います!
あっ、木村さん食事の件は、また後で!」
「えっ!いえ、それはお断り…」
前田先生は私の返事も聞かずに、慌てて走って行ってしまった。
「今、アイツ食事って言ったか?」
「ええ。食事に誘って頂いたんですが、お断りしようと思ってます。
今夜は何故か予定がありますから!」
私は前谷君に嫌味を言ったつもりだが、何故か彼は何も反応示さず、前田先生を追う様に行ってしまった。
なに、あれ?
なにか言う事ないの?
あんたのお陰で、前田先生のお誘い断るだからね!