過去の精算

さて、今夜は何作ろう?

仕事帰りは、いつも自宅近くの商店街を通って帰る。

「未琴ちゃん、今帰りかい?」
いつも買い物させてもらう八百屋のおじさんが、声を掛けてくれる。

「うん! 今日は何が安いかしら?」

「大根が安いよ? 1本100円だ! 安いだろ?」

確かに安い。
「でも、1本じゃ多いから…」

八百屋のおじさんは、“ 分かってるよ!” と言って、その場で、“よっ!” と、大根を半分に折ってくれる。そしてトマト2玉と、きゅうり3本を袋に入れ、150円で良いと言ってくれる。

「え、良いの? おばさんに怒られない?」

「大丈夫だよ?
ここの商店街の皆んな、未琴ちゃんのお母さんに随分お世話になったんだ!
うちのバァバァなんぞに、何も言わせやしないさ!」

「ありがとう!」

ホント商店街の皆さんには良くしてもらってる。
これもお母さんのお陰だよね?

母は、商店街の人達が具合いが悪いと聞くと、夜中だろうと走って行った。
治療は出来なくとも、苦しんでいる人の手を握る事や、背中をさすってあげる事は出来るからと、必ず駆けつけていた。
母が駆けつけると、不安だった病人もその家族も、安心出来たと感謝されていた。

『忙しくても、1年に一度は検診受けて下さいね? 時間は見つける物で無く、作るものですよ!』

これは、忙しい商店街の皆さんへ、母の挨拶で口癖だった。

だが、その母も時間が無いからと、治療は断っていたのだ。
これも全て、私を医大に行かせる為に…





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