希望の夢路

ハッピー・ショッピング

「心愛ちゃん、心愛ちゃん、大丈夫!?」
彼が私を呼ぶ声ではっとした。
「ひ、ろくん…?」
「どうしたの?すごくうなされていたけど…」
今のは、夢だったんだ…。
嫌な夢だった。
「嫌な夢を見ただけなの」
「どんな夢?」
「それは…」
「嫌な夢は、悪夢は早く言った方がいい」
「この前、道で倒れてたでしょ?」
「うん」
「その時のこと…」
「…そっか、怖かったな」
彼は私を優しく後ろから抱きしめた。
「ひろくん…」
私は、首に回された彼の腕を掴んだ。
私の手は震えている。
彼は何も言わずにそのままの体勢でいてくれる。
「僕から離れるなよ」
「うん、離れない」
彼は本当に優しい。
彼に外に出ようと言われたけれど、
まだ外の世界に飛び込む勇気が私にはない。

怖い。ひろくんと一緒だと心強いけど、それでもまたあの日のようなことがあったら。彼に迷惑をかけてしまうし、あれから毎日のように悪夢に襲われて、彼の優しい声で目が覚める。
あれからというもの、いつもうなされていて、気づけば汗びっしょりで。
夜遅くにも関わらず、彼は文句も言わずに私の額に流れる汗を拭ってくれる。汗びっしょりだから、着替えもしなきゃいけなくて。それも、彼は手伝ってくれる。汗もタオルで拭いてくれて…。私、完全に彼の世話になってしまっている。申し訳ない。
どうしたら恩返しできるんだろう。
そんなことを毎日考えている。

私は目が見えないから、
お洒落なんてする資格はないのかもしれない。私だって、他の女の人みたいにお洒落したい。女の子だもん、お洒落したい…。でも、私は目が不自由だからお洒落なんてしちゃ、いけない…?
ワンピースも着ちゃダメなのかな。
ヒールの靴も、履いちゃだめなのかな。おしゃれしたいよ。したいよ…。

それに、私は家に引きこもってた方がいいのかな。その方がひろくんに迷惑かけることもないし…。
外に出たばかりにひろくんに迷惑をかけてしまったんだもの。
外になんて、出ちゃいけないんだ。

私だって、買い物したい。
可愛い服だって買いたいし靴だって…。他にも、文房具とかいろいろ。
買い物したいけど…
私は外に出る勇気が出ない。
おしゃれする資格もない。
ぼろぼろの服を着てた方がいい…。

私は、あの子達の言葉に縛られてる。
そうわかってはいても、前向きになんてなれない。
なんで私、失明しちゃったの?
失明なんてしなければ彼にこんな苦労をかけることなんてなかったのに。
あんな酷いこと、言われることなんてなかったのに。

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