希望の夢路
「ひろくん…」
彼女が首に巻き付く僕を振り返り、頬を緩ませた。
「行くなよ…」
「どうしたの、ひろくん。私、どこにも行かない」
彼女は、自分の首に巻きついている僕の腕に優しく触れた。
「だって…あいつのところに」
「もう、ただおしゃべりするだけでしょ」
「いやだ。行かないでよ」
僕は更に腕に力を込めた。
「もう……そんな心配する必要ないのに。智也とは何も無いの」
「でも……心配…」
自分の声が、だんだんと沈んでいくのがわかる。
「そういうことだから、智也にはこれ以上近づけないの。ふふっ、ひろくんのやきもちも、嬉しいな」
彼女の呟きは智也に向けて言ったようだったが、僕はその言葉を聞いて嬉しくなった。
「ひろくん、私ひろくんしか好きじゃないの。だから、自信もって。あんまりやきもち妬かれたら、わたし困っちゃう」
彼女の顔を覗き込むと、彼女は口を尖らせていた。
「わかった、わかったよ。ほどほどにする」
「うんっ!」
彼女はにこにこしながら、僕の腕をぎゅっと握った。


「はあ、いつまでベタベタしてんの」
「いいじゃねえかよ、悪いか」
僕は、どうも智也を敵視してしまう。
「別に?……お似合いなんじゃね」
智也の言葉に驚きを隠せなかった僕は、その場に固まった。
「心愛のこと、幸せにしろよ」
「当たり前だ。言われなくても心愛ちゃんは幸せにする。誰もが羨むくらいにな」

きっと、智也はまた言うのだろう。
そうしないと、俺が奪うと。

「ん、良かったな。心愛」
「うん、ありがとう、智也」
智也は、奪うとは二度と言わなかった。まさか智也が、祝福の言葉を口にするとは、思わなかった。
「それだけの覚悟があるんなら、問題ねえな。心愛、せいぜい将来の旦那様に尽くせよ」
そう言って、智也は去っていった。
心做しか智也は涙を堪えているように見えた。





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