希望の夢路
僕は彼女の手を引いて、先程渡ってきた橋の上で立ち止まった。
「どうしたの、ひろくん」
「ん?ああ、いや」
僕は、左側から見える水色の支笏湖を眺めた。地平線の彼方まで続いているように見える、水色の支笏湖。
心が洗われるような清々しい空気。
橋の下を流れる水は、遠くに見える水色ではなくエメラルドグリーンだった。橋の下の水だけが、エメラルドグリーンだったのだ。

なぜこの橋の下だけなのだろうか、と不思議に思ったが、吸い込まれそうなほど綺麗な色に見とれていると、彼女の声が隣から聞こえた。
「綺麗でしょう?エメラルドグリーン」
「ああ、すごく綺麗だよ。ここだけエメラルドグリーンって、なんか不思議」
「私もそう思う。神秘っていうのかな、こういうの」
彼女がふふ、と笑うからつられて僕も微笑みを返す。
彼女は、橋の欄干の上に手を乗せた。
僕は彼女の左手をぎゅっと握った。
「心愛ちゃん」
「ん?なに?」
「新婚旅行、どこ行きたい?」
「もう、今新婚旅行してるようなものでしょ」
彼女が微笑んで目の前の支笏湖を眺めるから、僕は彼女の両肩に触れた。
「ちゃんと…二人きりの新婚旅行がしたい。誰にも邪魔されないように」
「ひろくんったら…」
彼女は照れながらも、行きたい場所の名前を伝えてくれた。
「私が行きたいところは…」
行きたいところはたくさんあって迷ってしまうけれど、と迷う彼女。
でも彼女が行きたいと言った場所は、僕も行きたいと思っていた観光地だった。観光地を巡るだなんて、もはや定番なのかもしれないけれど、彼女と行けるというだけで舞い上がるほど僕は幸せで。そんなささやかな幸せがいつまでも続くよう祈って、僕と彼女は新婚旅行の計画を練っている。


橋を渡り、支笏湖の一番近くで彼女と写真を撮る。スマホのカメラが、かしゃりと音を立てた。
「うん、よく写ってる」
「ふふ、ひろくんかっこいい」
「…ホテルに戻ったら覚悟しろよ」
「ええ〜?そ、そんな…」
彼女は顔を赤くしながら俯いた。


彼女となら、どこへ行ってもどこに居ても輝く人生が待っていると、そう思えるのは何故だろうか。愛する人と一緒にいられるということは、なんと素晴らしいことなのかと、僕は穏やかな支笏湖を彼女と眺めながら、飽きるまで目の前の水色の美しき湖を見つめていた。
互いに繋がれた手に光るリングがきらりと反射するのをちらりと見ながら、僕は静かに微笑んだ。






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