もう、我慢すんのやめた



「やだ。俺もう待てねぇもん」

「待てないって、……何が?」



見えてきた生徒玄関。
まだ沢山の人でガヤガヤと賑わっている。


「……好きなやつと、毎日こうして一緒にいられる今がこんっなに幸せなのに。ケガを理由にどこにも行けねぇなんて、生き地獄だって言ってんの」

「っ、な……!」

「俺の快気祝いだと思って付き合ってよ?ダメ?」


松葉杖を両手で持って、さらにそのまま両手の上に顎を乗せた弥一が、やや上目遣いで私を見上げる。


きっと、女の私よりもあざとい生き物だ。



「ダメ……じゃ、ないけど!でも!」

「じゃあ決まり。絶対、松葉杖取って、来週デートしてもらうから」

「か、勝手に決めないでよ!もし、出かけてまた痛めたりしたらどうすんの?余計に治るの遅くなるって受験勉強にも響くし!」

「ん?上等。あ、……職員室に用あんの忘れてた。先玄関で待ってて」

「ちょ……!弥一!?」



……人の話を聞かないのは、もしかしたら弥一の特技かもしれない。どうしよう、弥一のことだから絶対に松葉杖は取れちゃうだろうな。


日曜日の水族館で、人混みをけが人の弥一と一緒に回る……なんてデンジャラス。
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