もう、我慢すんのやめた

それを兄貴が信じてねぇって顔で見てくるのが気に入らなくて、俺は早口にそれだけ告げて玄関のドアに手をかける。


「海登、これだけは言っとくけど。自分の気持ち、押し殺して我慢したって、得られるものはなんもねぇぞ」


ドアが閉まる寸前。


背中で、そんな兄貴の声がした。
実際、その通りだなって思う。


小さい頃に父親を亡くしてから母子家庭で、昔っから働き詰めで家にいない母親と。そんな母親を少しでも助けたいって高校を中退してまで働いてくれた兄貴。


いつも、俺だけ守られてる気がして嫌だった。
早く、俺だって母さんと兄貴のためになりたいって思ってた。


だけど、兄貴はそんな俺に『俺らのためって言うんなら、お前は高校卒業してちゃんと大学行って、いいとこ就職してくれよ』って。


『俺は、お前に投資してんだから』なんて笑う。


きっと、同年代の友達とは比べ物にならないくらい、多くのものを犠牲にして、その全てを俺に惜しみなく与え続けたはずの兄貴。


なのに、いつも余裕そうに笑ってる。
俺も、そんな兄貴みてぇになりたかった。
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