おじさんは予防線にはなりません
前に池松さんの奥さんは美容師で、土日はもちろん仕事だし、夜も遅くまで働いていると聞いていた。
やっぱりすれ違いの生活は淋しいのかな。

――なんてこのときは思っていた。

「話は変わるけど、羽坂に頼みがあって」

言いづらそうな池松さんに背筋が伸びる。
池松さんの頼みなら、どんな無理だってききたい。

「……俺も経費の領収書、出すの忘れてて。
悪い」

ばつが悪そうに池松さんは胸ポケットから一枚の領収書を出して、私の前に滑らせた。

「……池松さんもですか」

思わず、あきれたように小さくはぁっとため息が出る。

「ほんとにすまん!
このあいだひさしぶりにスーツ着たときに、ジャケットのポケットに入れたまま忘れてた!
すまん、このとおり!」

拝まれると嫌だとは言えなくなるし、それに悪い気もしない。
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