おじさんは予防線にはなりません
なんの飾りもないシンプルなプラチナの指環は、奥さんの趣味なんだろうか。

「指環かー。
女除けにつけてみるかな」

冗談めかして笑う、宗正さんの瞳の奥は全く笑っていない。

「……冗談だよ」

ぼそっと私の耳元で囁いた宗正さんを見上げると、もうすでになんでもない顔で別のところを見ていた。
宗正さんがひとりで指環をつけたって、社外はいいが社内では意味がないのだ。

――付き合っていることになっている、私が一緒につけないと。

宗正さんと一緒にイヤリングを見ながら考えてしまう。

もし、もしも。

私が宗正さんとペアの指環をつけたなら。

――池松さんはどうするんだろう。

少しくらい、嫌な気持ちになって欲しい……というのは私の希望だ。
< 156 / 310 >

この作品をシェア

pagetop