おじさんは予防線にはなりません
「まあけど、こんな宗正でもいなくなると、困るもんな」

「こんなって!
こんなって!
酷過ぎるー。
……あ、詩乃、肉焼けてるよ」

しくしく泣き真似していた癖に、急に真顔になって大河は私のお皿にぽいぽい焼けたお肉を入れてきた。

「どんどん食べて、どんどん。
池松係長のおごりだし」

「ほんと君、遠慮がないね」

苦笑いで池松さんはゴクゴクとビールを飲んでいる。
にこにこ笑っている大河に私も笑い返してお肉を口に運ぶ。
でも、大河が頼んでいたのは特上のお肉だったのに、味はあんまりわからない。

「おいしいね、詩乃。
池松係長のおごりだと思うとさらに」

ぱたぱたしっぽ振り振りの大河は眩しい。
つい、悩んでいることなんて忘れちゃう。

――だからずっとそれで、私は自分を誤魔化しているって自覚もあるけど。
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