この溺愛にはワケがある!?

顧問弁護士が来た

時間は十二時五十五分になっていた。
三人とも何もしゃべらないまま、午後の業務の時間が来ようとしている。
その時、休憩室の扉が叩かれた。

「加藤さん、いる?」

前田課長の声だった。

「あ、はい、います」

美織は慌てて荷物を持って休憩室を出た。

「大丈夫?今、細川くんに聞いて……あー、腫れてるね……それでね、今、加藤さんにお客様さんが来てるんだけど」

ビクッとした美織に、前田課長は慌てて訂正する。

「ああ、違うよ!その女じゃなくて、藤堂弁護士さん」

「藤堂さん?弁護士?」

美織は首をかしげる。
弁護士はいっぱい窓口に来るけれど、藤堂という名前の人は初めて聞いた。
少なくともこの近辺で事務所を開いている人ではない。

「とにかくおいで。会議室を取っておいたから」

「はい、あ、でも私これから」

「いいよ、オレが入るから。加藤さんは今日は午後から半休ね」

「すみません………」

美織は前田課長と共に会議室に向かった。
ノックをして狭い会議室に入ると、そこには見事な白髪に、粋な濃紺のスーツを着た初老の男が立っている。
彼は椅子に腰かけずブラインドを指で下げ、隣接した駐車場を覗き見ながら振り返った。

「こんにちは、加藤さん」

あ!と思った。
姿はわからないが、美織はこの声に聞き覚えがある。
大谷静に叩かれた時に助けてくれた人だ。
美織のその表情に藤堂は相好を崩した。

「災難でしたね……ああ、可哀想に……酷く腫れている」

そう言うと藤堂は、後ろにいた前田課長に目で合図を送る。
それは、二人にしてくれ、という合図だと美織はピンときた。
一度心配そうに見た前田課長は、美織が微笑んだのを見て部屋を後にした。

二人は自然と向かい合って椅子に掛け、藤堂は懐から名刺を取り出して美織に渡す。

『黒田造船株式会社 顧問弁護士
藤堂義宗』

という文字が美織の目に飛び込んで来た。

「顧問弁護士の方!?その方がどうして私に会いに?それにさっきは何故市役所にいたんですか?」

「そのことです。貴女にはいろいろと知ってもらわなくてはならないことがあります。貴女にはその権利がある」

「はい………」

藤堂の言うことは良くわからなかったが、美織はとりあえず聞こうと思った。
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