この溺愛にはワケがある!?
「私が市役所にいたのは、大谷静を付けていたからです。あの女は隆政くんをまだ諦めてなくて、訴えまで起こそうとしていた」

「訴え??」

「そうです。理不尽に別れを切り出されたとかなんとかで、柴田の事務所に相談に行ったみたいですがね。まぁ、相手にするなと圧は掛けました」

(圧…………。圧力!?)

「他にもいろんな事務所を回ったが、どこにも相手にされず。悔しくて今度は商工会報を見て貴女をターゲットにしたのですよ。バカな女だ」

「そういうことですか……あの、藤堂さんは隆政さんと……大谷さんがどうして別れたかをご存知ですか?本人からは向こうに問題があったからとか……何とも思ってなかったからとか……そんな理由しか聞いてないんですけど……」

藤堂は腕を組み、少し笑った。
その顔は少し悲しそうでもあった。

「隆政くんは誰に対してもそうだった。来るもの拒まず、去るもの追わずだね。全く、こちらの苦労も考えてもらいたい。尻拭いをするのはいつも私なんでね」

「ああ、それは大変でしたね……」

美織の言葉は予想外だったらしい。
藤堂は端正な顔を崩して吹き出した。

「……貴女は……ははっ、大きいな。いや、本当に大きい。七重さんの孫だけのことはある」

「祖母をご存知で!?」

「もちろん、行政……社長と私は友人だから。彼がずっと七重さんを思っていたのも、ね」

「そうですか………」

「すいません、話が逸れましたな。そう、あの女、大谷静の話に戻しましょう。私は社長に言われて、あの女を調べたんです。大谷不動産、あれは裏でかなり汚いことをやってました。それは法に触れることでね、隆政くんが巻き込まれてはいけないと進言したんです」

「それで、別れさせたと?」

行政の指示だったのか、そう納得しかけたとき藤堂が言った。

「………その時ちょうど、七重さんの遺言のような手紙を小夏さんが隠していたことがわかってね。あ、小夏さんていうのは社長の奥さんなんだけど……その手紙を見た社長は七重さんの最後の願いを必ず叶えると誓ったんです。だから黒田の家に貴女をいれようと画策して隆政くんと成政くんをけしかけた」

「はい、その辺のことは聞いてます」

「えっ!?誰に?もしかして隆政くんが!?」

冷静な藤堂の驚く姿を見て、美織の方が驚いた。
目の前で人が死んでも動じなさそうな男が目を見開いている。
隆政が美織に話したことがそれほど驚くことなのか………。

「えっと、はい。付き合う前に隆政さんに……」

「……ははっ、あはははっ、そうか。なんだ、ちゃんと出来るじゃないか!!」

藤堂は大きな声で笑うと嬉しそうに破顔した。
そしてわけがわからず呆ける美織に、その理由を語り始める。

「大切に思う人に嘘なんて付けないからね。隆政くんは本当に貴女を大切に思ったんだな」

(だから……恥ずかしいんですけどーー!!)

呆けていた美織は今度は赤く固まった。
そんなことはお構いなしに、藤堂はどんどん話を進めていく。

「そうだ、貴女の疑問の件でしたね。確かに社長の指示で隆政くんはあの女と別れました。ただ本人の言う通り、思い入れはまるでなかったようです。ま、その辺は後程彼からお聞きなさい」

「………は、はぁ……」

「そして、私が来た目的はここからになります」
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