この溺愛にはワケがある!?

黒田家とその歴史

会議室を出ると、昼休みに入ったはずの芳子と亮二が心配そうに二人で立っている姿が見えた。

「加藤さん!!」

「美織さん!!」

二人は同時に声をあげ、美織に駆け寄る。

「あ!福島さん、細川くん、ごめんね。いろいろ心配かけて……」

「いいのよ……で、どうなったの?弁護士さんってどんな用だった??あ、ごめんね、言いたくなかったら別にいいんだけど……」

捲し立てる芳子は、いつものポーカーフェイスが崩れている。
その様子からどれだけ心配されていたかがわかり、美織は申し訳ない気持ちで一杯になった。
それほど心配してくれる二人に言いたくないことなどあるはずがない。
美織は二人にさっきあったことを話せる範囲で話した。

「なるほど。御大が出てきたならもう平気ね」

と、芳子はホッとして笑みを溢した。

「そうっすねー、でも、怖い女でしたよね。大谷不動産か……やっぱり暴力団と付き合いがあったんすね」

その亮二の言葉に芳子が答える。

「そうね、親も親なら子も子よね。でもやっぱり御大や弁護士さんの方が役者は上だわ。そういう連中も抑えるくらいの伝(つて)は持っているもの。それが、傾き掛けた黒田造船を建て直してここまでにした御大の力ね」

(は?!傾き掛けた!?)

「福島さん?!黒田造船って傾き掛けたんですか??」

初めて聞く事実に、美織は驚いて尋ねた。

「うん、そうよ。あれ?知らなかった?まぁそうね、随分前だから。私も生まれてない頃だしね」

「全然知らなかった……」

美織が物心ついた頃には、黒田造船はもう大企業になっていた。
2代目の社長、黒田行政は当時飛ぶ鳥を落とす勢いで経営を拡大し、周囲の小さい造船所を吸収合併していった。
そしてホテル業や飲食業、様々な分野でも成功を納めている。
そんな成功の軌跡しか知らない美織にとって、会社が傾いたなどということは到底考えられなかった。

「私ね、教育委員会にいたとき、地域の歴史を調べていた元校長先生の隣の席だったのよ。その先生が良く言ってたわ。黒田行政は地元の英雄だってね」

芳子は嬉々として語った。

「地元の英雄……」

「そう。彼がいなかったらこの地域は死んでたって。ま、そんなわけで私、御大のファンだから。加藤さんが黒田家に嫁に行くっていうのも羨ましかったりするわって、前にも言ったかしら?」

「……えーと……どうでしたっけ?」

それは全く覚えていないが振り返ってみれば、黒田家ネタに随分食いついてくるな、という気はしていた。
それも主に行政の話題に。
そんなに黒田家、いや行政が好きならもっとアピールしてくれれば良かったのに!
と美織が言おうとした時、廊下に大きな腹の虫が響いた。

「あ、すんません。オレ、飯食ってないんで、今から行ってきます」

そしてグゥと2回目のお腹を鳴らすと、亮二は恥ずかしそうにお腹を押さえた。

「あ、ごめんね、細川くん。待っててくれたんでしょ?」

「はは、まぁ、心配っすからね!でも、解決してよかった!」

そう言うと亮二は外への出口に向かった。
たぶん近所のうどん屋だな、と美織は目を細める。
残った芳子も昼御飯がまだらしく、じゃあまた明日と休憩室に消えていった。
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