この溺愛にはワケがある!?

院長先生と私

男性の後に付いて歩くこと約二分。
迷路のような病院内をしっかり記憶に刻んでおく。
さすがに案内の男性も診察が終わるまで、待っていてはくれないだろう。
そうすると、帰りは一人。
迷うと困るな、そう思ったからだ。

「ここで暫くお待ち下さい」

「ありがとうございます」

男性は元来た道を足早に帰っていく。
年末だ、きっと忙しかったに違いない。
美織は申し訳ない、と心の中で手を合わせた。

美織の案内された場所は、内科の診察室でも外科の診察室でもなかった。
大体そういうメジャーな診療科は入り口付近にあるものだ。
だが、ここは奥まった場所のしかも三階にあり、患者さんの姿がまったく見えなかった。
待合に良くあるような長椅子も見当たらない。
美織は仕方なく突き当たりに見えた立派な応接セットに浅く腰かけて待つことにした。
突き当たりとはいえ、そこは見晴らしの良い三方が窓に面した場所で、近くの海が遠くまで綺麗に見える。
美織はのどかな風景を見ながら、ぼーっとしていたが、ハッとあることを思い出した。

(隆政さんからのメッセージ、来てるかどうか確認しなきゃ!!)

怒濤のような出来事が、美織の頭からそのことをすっかり忘れさせていたのだ。
当事者であり諸悪の根源である隆政のことを忘れるくらいには、美織の午後はハードであった。
バッグからスマホを取り出し表示を見る。

(不在着信…………82件……は!?82件!?え、メッセージは……)

メッセージはたった一件。
『今すぐ帰る』という一言だった。
そこにはいつものかわいい画像はなく、無機質な黒い文字が浮かんでいるだけである。
出張は確か、明日までの予定だったはず。
それを今すぐとは……。
何かの冗談かと思い美織は返信した。

『大丈夫です。藤堂弁護士さんがいろいろ助けてくれて、何事もなく無事に済みそうです。今病院に診察に来てるので、そちらはそのままお仕事して下さい』

と。
そして、美織にしては珍しくネコがペコリと頭を下げた可愛い画像を送っておいた。

暫く待った、が、読んだ様子はない。
もしかしたら、もう移動中で空の上かもしれない。
はぁと溜め息をついてスマホをバッグに放り込んだ時、廊下の向こうの扉が開いて、メガネを掛けた白衣の男性が出てきた。
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