この溺愛にはワケがある!?
「自分本意、例えば初対面でお互い何も知らない状態なのに、自分の要求だけを突き付けるところ。それから、相手の気持ちをまるで考えないところ。勝手な思い込みがあるところ。あとは……良く知らないのでわかりません」

「…………それで、全部か?」

「あ、話を聞いてないところ。さっき、良く知らないのでわかりません、と言いました!」

美織は無表情で言い切った。
隆政はといえば、これまた無表情で美織を見つめたまま。
お互い一言も喋らない中、コーヒーを運んできたマスターがそのただならぬ様子に固唾を呑んでいた。
その証拠に手が震え、運んできたカップがスプーンと当たりカチャカチャと音を立てている。

「わかった」

マスターが去っていくのと同時に、隆政が言った。

「そうですか!それは良かった。これからはそういうところを直していくと人間関係がより良くなると思いますよ!頑張って下さい」

美織はホッと胸を撫で下ろし、まだ暖かいコーヒーが飲めることを喜んだ。
しかし、すぐにそうではなかったことに気付かされる。

「今、みおが言ったことを全て直せば結婚を考えてくれるんだな」

「だから………話を聞いてないじゃないですかー……」

頭を抱える美織の前で、自信たっぷりに隆政は言う。

「俺はみおと結婚したい。悪いところがあれば直すし、必要な物があれば言って欲しい。して欲しいことだって何だって遠慮なく言ってくれ」

「………今さら変わるなんて無理だと思いますよ……えっと、27歳でした?そこから変わるなんて到底無理………」

(それに、変わったところで結婚はしませんけど)

言葉と思いで2重に否定した美織に対し、またもや隆政は食い下がる。

「無理じゃない!変われる!君はいい方向に変わろうと努力する人間に、無理だからやめとけ、と吐いて捨てる人間なのか!?そうじゃないだろ?みおはそんな女じゃない筈だ」

(いや、だから、私の何を知っていると??)

そうツッコミを入れそうになり、美織は言葉を飲み込んだ。
後半はおかしいが、前半は完全な正論だった。
変わろうと努力する人に対して言ってはいけない言葉だった、それは隆政が正しい。
その美織の沈黙をどうとらえたのか、畳み掛けるように隆政が押していく。

「もう一度チャンスをくれ。見合いをはじめからとは言わない。まずは俺が変われるように側で見てて欲しいんだ。その上で判断してくれないか?」

「側で……見る??それってどういう……」

「文字通り、だ。確かめてもらいたい………まぁその、彼女的な……」

「何を言って……!?そういえば!あなた、彼女いるじゃないですか!?それも結婚するとか聞きましたよ!それなのに私と結婚したいとか……信じられないっ」

彼女という言葉で我に返った美織は、鬼の形相で隆政を睨み付ける。
だが、次に彼が言った言葉に呆れ全身の力が抜けた。
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