この溺愛にはワケがある!?
「そんなことどこで聞いたんだか。その人とは別れたよ。だから、安心していい」

「………安心て……別に興味はないですが……どうして別れたんですか?」

結婚という重大な決断をそんな簡単に翻してしまえるものなのだろうか?
好きだから付き合ったのだろうし、結婚も好きだから決めたのだろう……たぶん。
まぁ、ポンコツの考えなどわからない。
不思議な顔をする美織に隆政は、びっくりするくらい冷たい表情で答えた。

「特に何とも思ってなかったから」

「は?」

「結婚なんて誰としても同じだと思っていたからな。そろそろしないと社会的にどうかと思った時に、たまたま付き合っていたのがその人だったというだけだ。だが、彼女の方にいろいろと問題があってね。だから別れた」

「あなたのその考えで言うと……別に私でなくてもいいのよね?だったらどうぞ他の人と結婚して下さい」

いい加減痛くなってくるこめかみ辺りを押さえながら、なんとかここから無事に帰る事だけを美織は考えている。

「みおは違う。みおだけは特別なんだ。その辺の女と一緒じゃないんだよ」

隆政は先程の表情から一転、前のめりでとても熱く語り出し、美織は椅子の背に追い詰められるように深く腰を引いた。

「い、いいえっ!その辺の女ですよ!間違いなく!なので、どうか放っておいて下さい!」

「………はぁ……そうか、みおがどうしてもまだ結婚に消極的なら仕方ないな」

「えっ!それは!?」

今度は美織が体を乗り出した。
良かった、やっと諦めてくれたのか、と思いコーヒーカップに手をかける。
とにかく喉が乾いてしょうがない。
話も纏まりそうだし、やっとゆっくりコーヒーが飲める。
そう考えたのだが……甘かった!

「うん、まずは俺の女友達(彼女寄りの)として付き合ってもらえないか?」

「は………友……達………?」

新しいワードが飛び出してきて、美織は唖然とした。

「そう。友達として俺の変化を見届けて。友達として付き合って欲しいんだ」

「………友達?あなたと私が?……本当に友達(他人寄りの)ですよね?」

「ああ、友達(彼女寄りの)だ」

そう言って、隆政は商談をうまく纏めた後のようにニッコリと微笑んだ。

(友達………なら、いいか……な……)

『友達』という言葉が持つ曖昧なニュアンスに美織の態度は軟化する。
そしてとうとう……隆政の鬼のようなしつこさに美織が折れ、首を縦に振った。
職場には来ない、余計な連絡はしない、待ち伏せしない、を条件に連絡先も交換もして『普通の友達』としてスタートすることにしたのだ。
友達なら実害はないだろう。
と、美織はゆっくりとコーヒーを飲み干した。
ここから嵐のような非日常が始まることも知らずに。
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