この溺愛にはワケがある!?
美織はお弁当の包みの結び目をぎゅうぎゅうと締めながら、己の迂闊さを後悔した。
職場でイチャつくなんてもってのほか!
美織はそういうのは苦手だった。
だが美織はそうでも隆政は、人がいようがいまいが関係ない。
戸外での適切な距離感というものを知らないのか、家と同じように懐くのでやたらと近い!近すぎる!
だがもう何を言っても無駄なのはわかっているし、諦めてもいた。

(思えば……最初からそうだった……隆政さんの嵐のような圧倒的な力に、巻き込まれないでおく方が難しい。自然災害、いや人災だけど……もう不可抗力だよね……)

美織がいろいろ考えるのを諦めた時、芳子が思い出したように尋ねてきた。

「あ、ねぇ、そういえば、結婚式の日取りって決めた??」

「あっ!えーとですね、一応六月頃です。四月に隆政さんが社長に就任するのでそれが落ち着いたらっていうことで……」

「きゃー!憧れのジューンブライド!そしていきなり社長夫人!何から何までやってくれますねぇ!!」

寧々は複雑な顔をして言った。
前半は憧れと羨ましさだが、後半は悔しさと苛立ちが入り混じっている、そんな顔だ。

「まぁまぁ、寧々ちゃん。あなたもそのうち………」

といいかけて芳子はうっと口を覆った。

「え?福島さんっ!?どうしました??」

「芳子さんっ!?ちょっと……大丈夫ですか??」

軽く片手をあげ、芳子は「心配ない」とアピールする。
そういえば、と、美織は思った。
芳子は最近コーヒーをあまり飲まなくなったし、飲み会なども全て欠席しているらしい。
午前中も旦那さんが心配そうに見に来ていたし………。

(あれ?まさか?)

「福島さん……おめでたですか?」

美織は声を落として言った。
休憩室には三人しかいないので、その必要もなかったが、話題が話題だけについ小声になってしまった。

「え…………そうなんですか?」

寧々も囁くように尋ねる。

「………ばれちゃった?そうなの、今二か月後半くらい。前はつわり酷くなかったんだけどね、男の子なのかな」
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