この溺愛にはワケがある!?

既視感?

笑顔の成政の前で、顎が外れるくらい口を開けた美織。
もう、訳がわからなかった。
3週間前は、隆政に「結婚してやる」と言われブチギレて、今、成政に「結婚して下さい」とプロポーズされて言葉を失っている。
しかも、どちらも初対面でだ!
思えば行政が訪ねて来てから、美織の生活は一変した。
どうして黒田家の人間にこうも絡まれるのか……。
その答えを探ろうとしたが、美織は今、それどころではない。

「あ、あははっ、あの、ご冗談がお上手ですね!ありがたいお申し出ですがお断りしま……」

「どうして?」

「え………えっ!?」

成政はキョトンとして美織を見つめた。
それはまるで!
拒絶などあり得ないというように!

(この……既視感《デジャヴ》はまるで……あの時の!)

恐るべき黒田家の血は濃く受け継がれているようだ。
パッと見、そう自信家にも見えない飄々としたインテリヤクザ……成政でさえやはり黒田の家の者に違いないという確信が持てる。

(どうせ次にこう言うんでしょ?)

「僕と結婚したくないんですか?」

(そうそう、これこれ)

こんな困った状況にも関わらず、美織は思っていたことが当たりクスッと笑みを溢した。
多分、隆政で免疫が出来たんだろう。

(いや、そんな免疫いらないから)

と、自分に突っ込む美織に未だ不思議そうな顔の成政が言った。

「断られたのは初めてですよ。それとも、恥ずかしくて遠慮したのかな?」

(そんなわけあるか!!)

「いえ違います。本気でお断りします」

(これだけはっきり言ってもどうせ聞かないんでしょ??知ってますよ)

一度経験した出来事なら、対処の仕方はわかるもの。
美織は穏やかに微笑み成政の次の言葉を待った。

「欲のない人だな……美織さんは黒田造船の社長夫人になりたくはないですか?」
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