この溺愛にはワケがある!?

美味しい焼き鳥の店

それから10分ほど車を走らせ、潮の香りがする海沿いの道の途中で車は止まる。
そこには一軒の店があった。
古びた外観は昔ながらの商店を彷彿させ、暖簾には味のある文字で『やまどり』と書かれている。
何の店かな?と、助手席の窓を下ろすと風に乗って堪らなく食欲をそそる匂いが漂ってきた。

(これは…………焼き鳥!!)

焼き鳥は美織の大好物である。
中でも皮の部分をタレに絡め鉄板で焼き、コテで上から押さえた物が堪らなく好きなのだ。

ぐぅぅーーーーー。
美織の飼っている虫はもう遠慮などしない。
派手に鳴く虫に、隆政はまたくくくっと口許を押さえた。

「行こうか?焼き鳥」

「行きましょうっ!!焼き鳥!」

いつになくやる気たっぷりの美織に、隆政は笑顔で頷く。
二人は急いで車を降りると、冷たい海風の中を足早に店へと向かって走った。

『やまどり』は外からみても大きくはなかったが中も狭い。
5人が座れるカウンターと4人がけのテーブルが一つ。
あと奥に4畳程の座敷があった。
内装も先代から続いているのか、かなり年季が入っている。
だがそれがまた味わい深く、通の店っぽい雰囲気を醸し出していた。
美織の経験則から言うと、こういう店は『あたり』のことが多い。
これは味の方も期待出来そうだと美織の腹の虫はまた鳴り始めた。

「いらっしゃい……あ、タカちゃん!?久しぶりー!!」

レジ横で生ビールを淹れていた従業員の女の人が隆政を見て声を掛ける。

「おう、元気だったか?」

と隆政も気さくに返す。
それを見て美織はおや?と思った。

(何かいつもとは少し違う?なんていうか……心を許してる感じ?付き合いも長そうだし……友達?同級生?いや、元カノかな?)

そんな妄想をしながら美織も軽く会釈をする。
気の強そうな女の人は、頭を下げた美織に太陽のような笑顔で言った。

「いらっしゃい!奥の座敷にどうぞ!!」

(え?でも2人だけなんだけど……)

座敷はどう見ても6人くらいが余裕で座れるスペースがある。
それをたった2人の客で独占するのはどうなのか。
しかも、カウンター後ろの4人がけのテーブルも空いているのに、だ。
どうしたものか、と立ち竦んだ美織に隆政が言った。

「いいんだよ。ここはいつも暇なんだから」

「何だって!?お前、追い出すぞコラ!!」

カウンター前で串を焼いていた大将が威勢良く叫ぶ。

「はははっ、事実だろ?さ、みお、こっちこっち」

睨む大将に軽く頭を下げ、美織はぐいぐい引っ張る隆政に引きずられていった。
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