この溺愛にはワケがある!?

加藤さん、結婚するってよ

「おはようございますー……」

「おはよ……うわ、美織さん、目の下にクマ!!」

ちょうど給湯室から出てきた寧々が、美織の疲れた様子に大声を上げる。
その声に同じく給湯室にいた芳子も顔を覗かせた。
そして普段とは違うヨレヨレの美織に目を丸くする。

「あらー、まぁまぁ。何があったのかなぁ?うふふ、これはお昼に尋問ね」

「そーですねぇ」

芳子と寧々はニヤリとした。

進水式の翌日、そう今日だが美織は見事に寝過ごしたのだ。
昨日の進水式では浮かれた隆政に連れ回され、顔の筋肉が笑顔で固まるくらい挨拶をした。
やれやれと思ったのも束の間、次は結納だ結婚式だと騒ぐ爺とその孫に振り回される。
どうみてもVIPルームだろう部屋に連れてこられ、行政、美織、隆政とまた真ん中に挟まれて座った。
すると入れ替わり立ち替わり知らない人が現れて日にちや部屋を押さえたりだとか、指輪や花や着物だとかを決めろと催促してくる。
その度に美織は『はぁ、それで』『ああ、わかりました』『もう、これで』の三つの言葉を繰り返した。
そうして必要な物を手配し終えた時、もう外は真っ暗になっていたのだ。

疲れの残る体を引き摺りながら、なんとか午前の業務をこなす。
美織の前に座る来庁者は皆、一様にその顔を見て驚いていた。
たぶん、顔色の悪さとクマのせいだ。
どんなに酷い顔をしてるんだろうと最初はショックを受けたが、それも慣れるとどうってことない。
それよりも早くどこかに寝転がりたい、何も考えずに眠りこけたい。
美織はずっとそればかりを考えていた。

漸く昼のチャイムが鳴り、デスク前をさっと片付けると美織は席を立った。
これでとりあえず半分終わった!
そう思った時、ふとその後ろに気配を感じて振り向く。
机を挟んだ向こう側には、つい昨日合ったばかりの同期の男が薄笑いで立っていた。

「どうもー!うわぁ、顔が……疲れてるな……」

「あー、こんにちはー……昨日はお疲れー」

「いや、お疲れはアンタだし」

と男はクスクス笑った。
毛利聡、広報課の同期の男は昨日の進水式に出席していた。
広報課は市の広報誌を毎月発行していて、その表紙の撮影とかで出席することがあるのだそうだ。
運悪く、昨日は撮影に来ていた毛利と被ってしまったらしい。

「はは、まぁそうだけど。で?私に何か用事?」

「うん。あのさ、来月の広報誌の写真、これ使うけどいい?」

毛利にA4で打ち出した写真を見せられ、美織は絶句した。
そこには今正に進水しようとする新造船を背景に、それをうっとりと見つめる美織、その美織をさらにうっとりと眺める隆政が写っている。
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