この溺愛にはワケがある!?
言葉の途中で何かを思いついたらしい隆政は、美織の手をとっていきなりホールの外に出た。
そしてすぐ近くのエレベーターに飛び込み、1のボタンを押す。
美織は訳もわからずエレベーターに押し込まれ、訪ねても微笑むだけで何も答えない隆政の背中を見ていた。
エレベーターが一階に着き、慣れたように角を左に曲がって次に右へ。
着物の美織が無理しない速度で隆政は歩く。
一階には高級店が立ち並び、一際華やかな雰囲気を醸し出している。
隆政は高級店を素通りし、裏の出口付近にある店の前で止まった。

「花屋………」

可愛らしい外観のすごく小さな花屋がそこにあった。

「待ってて」

隆政は美織を外に待たせスイッと狭い花屋に入った。
店の中には二十くらいの若い男の子が一人、店番をしている。
その男の子に何か話しかけると、店内にある保冷のケースの中から何かを取り出した。
大きい隆政の背中が影になって、何を取り出したのかは全く見えない。
ま、いいかと大人しく待っていると、やがて出てきた隆政が何かを後ろに隠しつつ微笑んでいた。

(ふふ、定番の赤いバラとか?)

美織はドラマとかで良く見る光景を想像した。
そして、想像通り隆政は跪き後ろ手に持っていた物を差し出した。
定番は赤いバラ………なのだが。
………出されたのは一本の白いバラ。
色が違うだけでそれは予想通り、であった。
だが、一瞬息を飲んだ。
ダークグレーのスーツが白のバラを鮮やかに浮き立たせ、美織の目に純白が飛び込んでくる。
そして、純白の後ろに少し恥ずかしそうな隆政。
情熱的な赤いバラでは表現出来ない、純粋な隆政の想いがそこにはあった。

「初めて出会った時に、君に一目惚れをしました………俺と……結婚して欲しい」

眼前に迫る純白を美織はおずおずと受け取った。
夢のような光景に何と言っていいかわからず暫く言葉が出てこない。
しかし、この場面で何も言わないわけにはいかない。
隆政は跪づいたまま待っているのだ。

「ど………どうぞ、よろ、しく」

辿々しくなんとか言葉にすると、ホッとした様子の隆政がスッと立ち上がった。
ふと見ると、花屋のガラスの向こうでは店員の男の子がスマホを片手に張り付いてガン見し、隣のセレクトショップでも綺麗なお姉さんがマジマジと見つめている。
裏口ではあるが何人かの従業員も立ち止まって見ていた。
美織の顔は途端に真っ赤になったが、さっきまで恥ずかしそうだった隆政は今は余裕で笑っている。

「あっ、あの、早く戻らない??」

「そうだな、プロポーズが成功したと報告しよう!」

「だ、誰に!?」

「爺さんに。で、すぐ結納の準備をしよう!」

「は?」

「善は急げと言うだろう?」

「いや。あの……」

早口で捲し立てる隆政について行けず、美織はただモゴモゴと言うだけである。
そして引きずられるようにしてホールに辿り着くと、そこでまた自慢げに紹介する隆政に引っ張り回された。
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