この溺愛にはワケがある!?

隆政くんと安政くん

それから3日後、次の日から出張へ行く隆政はいつものように美織の家に来ていた。
会議や出張、仕事がない日、彼はいつも美織の家に寄る。
もうそれは決まり事のようになっていた。
そして来る度に防犯グッズを持参する。
年末はいろいろ物騒で、女性の一人暮らしは危ないからというのだ。
ご丁寧にわざわざ男物の下着を買ってきて見えるところに干したり、玄関の鍵を二重にしたり。
それでも満足せず、こうやってランダムに出入りして牽制したりしている。
そんなことしなくても、誰もこんな貧乏そうな平屋に入らない。
という美織の意見は全く聞いてもらえなかった。
今日も居間の大きな窓を割られないように補強しながら、夕食を作る美織と会話している。

「ここからは安政が良く見えるな」

「うん。安政くんがいるお陰で結構安心して寝れるわ」

「安政……あー、俺は安政になりたい」

安政くん。
それは庭のマーライオンに美織が付けた名前だ。
セキュリティマーライオンの安政くん。
名付けてしまうと親近感がわいてしまうもの。
美織は庭掃除のついでに、安政くんを磨いたり撫でたりとかなり可愛がっていた。
それで隆政は拗ねている。

「安政より俺の方が頼りになるところを見せないとな!」

と、隆政は変な意気込みを見せた。

「何と張り合ってるのよ……」

「………なぁ、本当に俺んちに移らないか?セキュリティは万全だし俺も安心出来るし」

隆政は美織を心配して、自分のマンションに来ないかと勧めた。
だが美織はまだ七重との思い出が残るこの家を去る決心がつかない。
隆政もそんな美織のことを良くわかってくれ、こうして忙しくても寄ってくれている。

「……ごめん」

「そうか。いや、いいんだ。結納が終わったら俺、こっちに移ろうかと思うんだけど、いいかな?」

「隆政さんが?ここに?」

「嫌か?」

美織はぶんぶんと頭を振った。
最初に比べたら居間に隆政がいる風景が随分馴染んできている。
初めてこの家に招いた時は、びっくりするくらい違和感あった。
だが慣れとは恐ろしい。
居間だろうが、台所だろうが、古いお風呂だろうが、そこにいる時間が増えれば景色の中に簡単に溶け込む。

「でもいいの?不便よ、ここ。広くないし、寒いし」

「大丈夫、寒かったらみおを抱いて寝る」

「だぁっ!?抱いてって湯たんぽか!?」

美織は変な声を上げたが隆政はスルーして話を続けた。

「それに、何が不便なんだ?みおがいて、生活に必要なものは全てある。これ以上何もいらないだろ?」

「あるわよ。足りないもの」

「何?」

「布団。布団が一組足りないわ」

「………ベッドにしないか?」

「…………………せまい」

「…………………だな」

こうしてベッド案は却下された。
< 96 / 173 >

この作品をシェア

pagetop