この溺愛にはワケがある!?
「あ、王子っていうのは見た目とかじゃなくて。ほら、いつか白馬の王子様がやってくるっていう、比喩的なやつ」

美織は隆政が白馬に乗っているのを想像して顔がひきつった。
比喩にしろ何にしろ……気持ち悪い。

「彼は加藤さんを凄く好きなんだと思ったんだ。目が恐いくらい本気だったからね。一瞬ストーカーかとも思ったけど」

同感です!と美織は心の中で叫んだ。

「俺は市の行事で彼の顔を知っていたらからね。どこの誰か身許もわかっていたし、ストーカーするほどアホではないのも知ってた。但し、女の噂が多いのも……あ、ごめん」

「……いえ。それは良く知ってますので」

コホンと咳をして、前田課長は続けた。

「とにかく、どうしてそうなったかは全くわからなかったけど、彼が本気で加藤さんに惚れてるのはわかった。だからね、短期間で色々あって結果こうなったのも納得だよ」

「納得……?課長は、私とたか……黒田さんが釣り合ってるとでも思ってるんですか?」

美織は前々からずっと考えていた疑問をぶつけてみた。
それは今日、悪意に満ちた沢山の視線が語っていたことと同じだ。

「……思ってるよ。ああ、でも、彼に加藤さんは勿体ないかなとも思ってる」

「なっ!?逆じゃなくて!?」

「どうして逆だと思うの?多分彼は俺と同じことを言うと思うんだけどなぁ。今度聞いてみるといいよ」

「はぁ………」

(いや、そんなこと聞けませんよ……恥ずかしい)

「ごめん、なんか話が脱線したんだけど。要するに俺は《おめでとう》って言いたかったんだよ」

「あ、はい。どうもありがとうございます」

前田課長は寒いのか、ポケットに手を入れ肩をすぼめている。
だが、向かいの路肩に止まった赤い車を見て、すぐに手を出しそちらに向けて手を振った。

「奥様ですか?」

「うん、そう。ラブラブだろ?」

「ふふっ、そうですね!」

じゃあまた明日、と言って赤い車に走りだした前田課長は、何故かもう一度振り返った。

「加藤さん、家族を作るといい。一人じゃなくなるって最高に面白いよ」

美織の返事を待たずに、前田課長は足早に助手席に消えていった。
家族を作る……その言葉がやけに美織の耳に残る。
七重が亡くなって、一人になった。
そして、今度は隆政と結婚して二人になろうとしている。

「最高に面白い……か……」

まだ漠然としたその言葉を、美織はゆっくりと反芻した。
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