かわいい戦争
無意識に学ラン肩かけ男の手から自分の手を離し、1人で立ち上がった。
倒れた椅子を気にする余裕は、今のわたしには皆無だ。
「え、えっと……わたしに何かご用です、か?」
「伝言を頼まれてさ、君のこと捜してたんだよね~」
「え?」
「制服で同じ高校ってことは知ってたけどクラスまではわかんなかったから、少し時間かかっちゃったけど」
学ラン肩かけ男はそう説明しながら、周りの女の子たちに手を振ってファンサービスをしてる。
抜け目がない。
「で、伝言って……?」
不吉な予感しかしない。
それは、周囲から好奇と嫉妬の視線が突き刺さってるせいだと、思い込みたいけど……そうじゃないよね、たぶん。いや、絶対。
口を開いたのは、美人な男の子だった。
「リッキーが、洋館に来てほしいんだって」
「り、リッキーって?」
「利希のこと」
「リキ?それって……」
リキ――利希。
そういえば、昨日の修羅場で、高身長の男の子がそう呼ばれていたっけ。
……え。
っていうことは。
あの性格悪い男の子が直々にわたしを招待してるの!?
「なぜ!?」
あ、つい大声出しちゃった。
しかもタメ口だし。
正気に戻り、後付けで「……ですか」と敬語を足した。