【短編】きみの甘くない魔法
「汐田(しおた)は本当にお菓子づくりうまいよなぁ」
カシャカシャとボウルの中で卵を混ぜる私を眺めながら、彼が呟く。
「コウもだんだん上手くなってるよ」
私がそう言ったら、彼は嬉しそうに目を細める。
コウの好きな人は、ひとつ上の先輩で。
一度すれ違った時に「あの人」と囁いて教えてくれたのだけれど、ツヤツヤの黒髪が綺麗な、大人っぽい人だった。
「甘すぎるのは嫌いだけどお菓子は好きらしくて、この前教えてもらったマフィンあげたら嬉しそうに笑ってくれた」
そう報告してきた彼は幸せそうで、その横顔がやけに眩しくて。
そしてすこし、苦かった。