はちみつの景色

「さあ、帰ろっかなー」
「果乃は?」
「帰るよー、なんか今日は頭が働かない」
「矢野のこと考えてる?」
「そんなんじゃないよ」

私が考えているのは…

「果乃。」

え…?




突如として、教室の空気は一瞬にして凍りついた。




千景くんが急に振り返って私の名前を呼んだから。

それがものすごく大きい声で、何が起こったか全員わからないし、もちろん私もわからない。

あの日から挨拶くらいは交わすものの、やっぱり全部が夢じゃないかと思うほど、ほぼ接点がないに等しかったから。

「今、千景が名前で呼んだ…」
「え、え、どういう関係?」
ヒソヒソと話す声。


「果乃、ちょっと!」
「へ?」

千景くんに腕を引かれ、びっくりした私は引かれたまま。教室を出る。

「千景くん?どうしたの?!」
「ごめん、ちょっとだけ…」

廊下ですれ違う人も、先生でさえも、みんながとにかくびっくりしていて、風を切るように早歩きでそのまま屋上まで手を引かれたまま来てしまった。
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