はちみつの景色
よし、言った。
好きとか以前にまだ友達でもない、ただのクラスメイトだ。
「急でごめん、そのヘアピンはあげる。昨日、鏡で合わせてたの似合ってたから。で、その、お礼。」
「お礼言われることなんてしてないよ!」
「今日、バイト先聞かれてた時、黙っててくれてありがとう」
昨日のバイトの話。それはちゃんと伝えておかなきゃと思った。
「実は…あんまり女子が得意じゃなくて。」
「え、でも話しかけられてるし、普通に返事もして…」
「うん、だから相槌と生ぬるい返事だけはどんどん上手になってる、と思う」
やっぱりそう見えてるのか、軽い男と思わないで。
「中川さんはなんか、いいな、って思ったから」
中川さんにだけ伝わればいいから。
「…ヘアピンありがとう…明日からつけるよ。
友達も…喜んで。」
「ありがとう、中川さん」
俺は晴れて中川さんと友達になった。