流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
 ジュリエが肩に手をかけて赤いドレスをするりと脱いだ。

 下には木綿の簡素な下着をまとっている。

 王女の右隣に腰掛けると、左手を背中に添えながら右手で抱き寄せた。

「な、何をなさるのです」

「さすがは王女様、お上手でいらっしゃいますね。殿方の情熱を燃え上がらせるには、今のように拒むのも立派な手段ですわ。征服欲をそそるしぐさもまたスパイスの一つですからね」

 ゆっくりと寝台に押し倒されて真っ直ぐに目を見つめられる。

「わたくしを殿方と思ってくださいませ」

 ジュリエがエミリアの衣装に手をかけた。

 首まで隠す衣装の結び紐をほどこうとしたとき、エミリアがおびえたような目をしながら必死にジュリエの手をつかんだ。

「い、いけませんわ」

「大丈夫ですよ、王女様。何もこわくはありませんから」

 きつく結ばれた紐はなかなかほぐれない。

 結び方が下手なのではなく、何重にも鍵のついた金庫のようにきつく縛ってあるのだった。

 ジュリエは左手で王女の髪や頬をなでながら、右手で結び目を丹念にほぐしていった。

 紐がほどけたとき、王女は目を閉じていた。

 ジュリエがゆっくりとドレスを開くと、王女の首から胸にかけて瘡蓋状の発疹の跡が現れた。

 痣のように赤黒い部分からはじゅくじゅくと膿がにじみ出している。

 ジュリエはそっと布地を重ね合わせた。

 疫病にかかった者はほとんど亡くなってしまうが、まれに生き残る者もいた。

 しかし、胸に跡が残ってしまうことがあり、『死神の手形』と呼ばれて忌避されていた。

 エミリアは無言だった。

 目を閉じたままじっとしていた。

 ジュリエは紐を結び直して、王女と共に寝台に横たわると毛布を掛けた。

 添い寝をしながら母親が娘にしてやるようにそっと背中を撫でた。

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