流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語

   ◇ いらだち ◇

 翌朝、目覚めたときにはすでに日は高くなっていた。

 ジュリエはいなくなっていた。

 エミリアはベッドから出て、窓辺に歩み寄った。

 中庭を見おろすと、祝賀会の準備で用人達がせわしなく動き回っている。

 四方の見張り塔をつなぐ回廊には、様々な紋章旗が掲げられて、穏やかな風に揺れていた。

 角笛が鳴って、衛兵の声が響く。

「タリス子爵家ご一行、ただ今ご到着でございます」

 回廊にまた一つ旗が掲げられた。

 どうやら、もうかなりの諸侯が登城しているらしい。

 エミリアは女官を呼んで身支度を調えた。

「本日のお召し物でございます」

 用意されていたのは全体に宝石をちりばめた派手なドレスだった。

 鏡に映った姿を見て王女はため息をついた。

 これではまるで見世物ではありませんか。

 ドアが二度ノックされてシュライファーが入ってきた。

「お目覚めでございますか、お嬢様」

 昨夜のジュリエとのやりとりを思い出すと顔が熱くなる。

 努めて平静を装って告げた。

「わたくしは何をすればよいのかしら」

「まずは城下の者達へのお目見えをなさってください。下々の者への振る舞いがございますので」

 シュライファーに促されてエミリアは回廊を通って正面の監視塔へ移動した。

 塔の上では儀典官達が待機していた。

 よく晴れた青空の下にナポレモの市街地が広がる。

 諸侯の旗が翻る回廊に王家の紋章旗がひときわ高く掲揚される。

 儀典官がお目見えの合図として角笛を吹く。

 王女が塔の上から見おろすと、眼下の広場には大勢の市民が集まっていた。

 エミリアが手を振るとみなが拍手喝采で迎えた。

 スカーフを持って手を振る娘達や口笛を吹き鳴らす酔っ払いもいる。

「おお、エミリア様だ。なんとお美しいことか」

「王女様、おめでとうございます」

「王様万歳! 王女様万歳!」

 広場では振る舞いが始まった。

 人々はパンを奪い合い、肉に食らいついている。

 音楽を演奏する者や道化師もいる。

 老若男女さまざまな人々が王女を見上げて喜んでいる。

「わたくしはあの者達を知りませんのに、みなはわたくしのことを知っているのですね」

「ええ、お嬢様はこれらの市民や農民達の上に立つ者でございます。知らぬ者であっても、それぞれに生活があり、家族がおります。平穏な生活を守ってやることが王家の役目でございます」

「それはお父様のお仕事でしょう」

「いいえ、お嬢様もその一端を担うのでございます」

「荷が重いことですわね」

 儀典官がシュライファーに耳打ちをした。

「お嬢様、ナヴェル様がご到着なされたそうです」

「伯父様が……。そうですか」

 もう一度眼下の市民達に手を振ってから、エミリアは部屋に戻った。


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