流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
 部屋ではボシュニア公爵家の名代であるナヴェル伯父が待ち構えていた。

「ほほう、これはエミリア様、お久しゅうございますな」

「伯父様もお元気そうで何よりですね」

「わしの膝の上でお漏らしをなさっておったお嬢様がこんなに立派になられて、さぞ、ナシュターシャも喜んでおることであろうよ」

 ナシュターシャはエミリアの亡き母で、ナヴェル伯父にとっては年の離れた妹であった。

 伯父がエミリアの頬を両手で挟む。

「さすがに我が愛する妹の面影が宿っておりますな。懐かしいものよ。嫁入りの時に十二だったナシュターシャの後見人としてわしが登城した日のこともつい昨日のことのように思い出しますぞ」

 ボシュニア公爵家は伯父の兄にあたる当主がすでに亡くなっている。

 子供がいなかったために、後継者がおらず、伯父が名代を務めて家中を取り仕切っている状態だった。

 伯父にも子供はいないため、このままでは由緒ある名家も断絶の運命にあった。

「お嬢様におかれましては、良い婿をお取りになり、立派なお世継ぎをたくさん産んでくだされよ」

 王女はいささかうんざりしながら言った。

「伯父様も、どうなさるのですか」

「公爵家のことでござるか。養子でももらいますかな。今日集まる貴公子達の中にわしの目にかなうものがおればよいのですがな」

 そんな人がいれば、期待に胸が膨らむというものだ。

 だが、昨日の身上書を見る限りでは、今日の祝宴に期待できる要素は何もないのだった。

「では、お嬢様、また後ほど」

 ナヴェル伯父が退出してエミリアはため息をついた。

「本当に、あの伯父といると疲れますわ」

 控えていたシュライファーが口を挟んだ。

「お嬢様のような若い方は日々新しいものに触れて変化を受け入れていくものですが、ナヴェル様のようなご老人は過去を美化するものでございます。ただそれはどちらが正しいというものではなく、単なる経験の違いでございます」

「分かっております。伯父のことを悪く言うつもりはありません」

「騎士道かぶれの古狸とおっしゃっておりませんでしたか」

 図星だが、そこまでは言っていない。

「あなた、わたくしの言葉にかこつけて伯父の悪口を楽しんでおりませんこと」

「いいえ、そのようなことは決して」

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