流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
ナヴェルの表情は晴れやかだ。
「この若者なら、由緒あるアルフォンテ十二騎筆頭ボシュニア公爵家を立派に盛り立ててくれるでしょうからな。そのうち嫁も迎えればなお良いですな」
「でも、それは……」とエミリアはマーシャに視線を向けた。
「ほう、もう心に決めた娘がおりましたかな。では、姫様のお力添えで婚姻の儀を執り行うというのではどうですかな」
養子とはいえ公爵家当主となるキューリフに、庶民のマーシャを嫁がせるには身分の問題が生じてしまう。
そのため、いったん形式的にアマトラニ王家の養女に迎えることで貴族の地位をあたえ、その後公爵家に嫁入りさせるということだ。
貴族社会においては、こういった形式的な手続きというものが必要なのである。
「わたくしに異存はございませんが、よろしいのですか」
「よろしいも何も、好き合う二人を邪魔などいたしませぬぞ。このナヴェル、老いたりといえどもまだまだロマンスには目がありませんからな」
ナヴェル伯父がエリッヒに向かって快活に笑う。
「殿下もご了解いただけますでしょうな」
急に話を振られたエリッヒはエミリアと視線を交わしながら苦笑していた。
「ええ、カーザール帝国も二人の婚礼を祝福いたします。両国の友好関係のためにも」
ナヴェルが甲冑の腹をたたく。
「これでようやく先祖伝来の甲冑を受け継いでもらえますな。キューリフ殿、さっそく試してみてはどうかな」
「この甲冑を……、でございますか」
若者が困惑顔でエリッヒに視線を送るが、皇子は鷹揚にうなずくだけだ。
おう、そうじゃそうじゃ、とナヴェルは一人で甲冑を脱いでいく。
真っ赤な老人の裸体からは湯気が立ち上っている。
「伯父様、今ここでなさらなくても」
エミリアは止めようとするが、頑固な老人は受け付けない。
「今だからこそですぞ。話は早い方がいい。ほれ、遠慮せず、着てみなされ」
冬空の下で裸の老人が若者に甲冑を着せつける。
エミリアはマーシャを呼んだ。
「あなたもお手伝いなさい。これから毎日やらなければなりませんからね」
「かしこまりました、姫様」
女官は笑いをこらえながらキューリフの背中の留め金をかけてやっている。
その様子を眺めながらナヴェルは満足そうにうなずいた。
「どうじゃ。重みが違うであろう。かつて東洋の大騎馬帝国の侵略をはねのけた偉大なるご先祖から引き継いできた甲冑ですからな」
「この若者なら、由緒あるアルフォンテ十二騎筆頭ボシュニア公爵家を立派に盛り立ててくれるでしょうからな。そのうち嫁も迎えればなお良いですな」
「でも、それは……」とエミリアはマーシャに視線を向けた。
「ほう、もう心に決めた娘がおりましたかな。では、姫様のお力添えで婚姻の儀を執り行うというのではどうですかな」
養子とはいえ公爵家当主となるキューリフに、庶民のマーシャを嫁がせるには身分の問題が生じてしまう。
そのため、いったん形式的にアマトラニ王家の養女に迎えることで貴族の地位をあたえ、その後公爵家に嫁入りさせるということだ。
貴族社会においては、こういった形式的な手続きというものが必要なのである。
「わたくしに異存はございませんが、よろしいのですか」
「よろしいも何も、好き合う二人を邪魔などいたしませぬぞ。このナヴェル、老いたりといえどもまだまだロマンスには目がありませんからな」
ナヴェル伯父がエリッヒに向かって快活に笑う。
「殿下もご了解いただけますでしょうな」
急に話を振られたエリッヒはエミリアと視線を交わしながら苦笑していた。
「ええ、カーザール帝国も二人の婚礼を祝福いたします。両国の友好関係のためにも」
ナヴェルが甲冑の腹をたたく。
「これでようやく先祖伝来の甲冑を受け継いでもらえますな。キューリフ殿、さっそく試してみてはどうかな」
「この甲冑を……、でございますか」
若者が困惑顔でエリッヒに視線を送るが、皇子は鷹揚にうなずくだけだ。
おう、そうじゃそうじゃ、とナヴェルは一人で甲冑を脱いでいく。
真っ赤な老人の裸体からは湯気が立ち上っている。
「伯父様、今ここでなさらなくても」
エミリアは止めようとするが、頑固な老人は受け付けない。
「今だからこそですぞ。話は早い方がいい。ほれ、遠慮せず、着てみなされ」
冬空の下で裸の老人が若者に甲冑を着せつける。
エミリアはマーシャを呼んだ。
「あなたもお手伝いなさい。これから毎日やらなければなりませんからね」
「かしこまりました、姫様」
女官は笑いをこらえながらキューリフの背中の留め金をかけてやっている。
その様子を眺めながらナヴェルは満足そうにうなずいた。
「どうじゃ。重みが違うであろう。かつて東洋の大騎馬帝国の侵略をはねのけた偉大なるご先祖から引き継いできた甲冑ですからな」