流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
 荒廃したナポレモでも復興の動きが進んでいた。

 形式的にアマトラニ王家を継いだエミリアは、これまた形式的にマーシャを養女としてボシュニア公爵家新当主キューリフとの婚儀を執り行った。

「汝、キューリフ・カンタン・ド・ラ・ボシュニア。健やかなるときも病めるときも、富めるときも貧しきときも、マーシャ・ファン・エミリア・オレ・アマトラニただ一人を愛することを誓いますか」

「はい、誓います」

 マーシャの指には王家伝承のサファイアの指輪がはめられていた。

 それは同時に、エミリアが退位し、マーシャが新しい女王として君臨することを象徴していた。

 大役を務めたエミリアは晴れ晴れとした表情でマーシャに告げた。

「アマトラニ王家の養女ですから、わたくしの次に継承権を持つのはマーシャですわ。ならばあなたが王家を継ぐのが当然です」

「姫様、そんな無茶な」

「このナポレモも、今日からあなたのお城です」

「でも、わたくしの家には大きすぎます。屋根裏部屋があれば充分ですから」

 ナポレモの城の再建はマーシャの意向で要塞としての機能を廃止し、開けた自由交易都市としてまったく新しい設計で行われることとなった。

 マウリス伯によって取り上げられていた所領をアルフォンテ十二騎諸侯へ再分配し復権させ、自らは象徴君主として王政の中心から距離を置き、自由市民による自治を認めることとした。

 君臨すれども統治せず。

 市民から『前掛けの女王』として敬愛された若き新女王はそれから長く平和維持に務め、ナポレモはゴミ一つ落ちていない清潔な街として、東西交易によって繁栄したという。

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