流転王女と放浪皇子 聖女エミリアの物語
 花婿候補達の退屈な紹介を終えてエミリアが中央壇上の大理石テーブル前に立つと、また拍手がわき起こった。

 エミリアの隣には父王とカーザール帝国祝賀使節のシューラー卿が立っていた。

 マウリス伯の紹介によれば、シューラー卿は元僧正で、教会の後ろ盾を得て帝国の外交を長年手がけてきたらしい。

 爵位を持たない立場でありながら皇帝バイスラント三世が最も信頼する側近として政務を司っているということだった。

 王女はシューラー卿に挨拶した。

「このたびはわたくしのためにナポレモへお越しくださり、まことにありがとうございました」

「我が帝国との友好のためとあらば、このような辺境の地へも参るのが外交使節としての私の使命ですから仕方ありませんな。本日はまことにめでたい日でございますな」

 ナポレモのことを田舎と蔑みながら形式的な言葉を述べる尊大な老人に対して、エミリアも作り笑いを返すのが精一杯だった。

 マウリス伯が背後から声をかけて三人は席に着いた。

 角笛の合図で厨房の扉が開き、料理人達が恭しく大皿を掲げて現れる。

「本日は親愛なるエミリア王女様の成年の儀にふさわしいお料理をご用意いたしました。東洋の香辛料をふんだんに使った自信作でございます」

 料理長の言葉通り、会場内に焼けた肉と異国のスパイスの香りが漂う。

 クジャクとツルのあぶり焼きに豚の丸焼きが登場し、大理石テーブルの上に並べられていく。

 続いて果物やチーズの皿、そして、東洋の船の形に仕立てられた巨大な砂糖細工が登場して大広間には驚嘆のどよめきが広がった。

「本日の香辛料や砂糖は城下の貿易商人アインツ・ブリューガーにより東洋の果てからもたらされ、王家の繁栄と王女様の末永き幸せを願って献上された品でございます」

 料理長に紹介された男が国王アルフォンテ二世に向かって頭を下げる。

 父王は上機嫌にうなずきながら商人に声をかけた。

「東洋の果てには黄金の国とやらがあるそうだが、おまえは知っておるか」

「はい、陛下。私は黄金の国ジパングに赴き、このような宝を持ち帰って参りました」

 アインツ・ブリューガーは顔の大きさほどもある楕円形の黄金の板を取り出して高く掲げた。
 荘厳な輝きに一斉に感嘆の声が上がる。

「こちらはジパングの太守より授けられたこの世に二つとない宝でございます。私どもブリューガー家はこれからますます東方貿易を発展させ、偉大なる王家に貢献して参りたいと存じます」

「うむ、期待しておるぞ」

 父王が満足げにうなずくと、『国王陛下万歳』の声が上がった。

「まことに見事な物でございますね」

 いつのまにか背後にシュライファーが控えていた。

「ええ、この世の物とは思えない宝ですわね」

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